今回は桑島氏の鑑定内容の紹介です。法医学論争の基礎となる非常に大事なところです。鑑定書の結論部分や桑島氏による解剖結果の説明をもとに、管理者なりにまとめてみました。やや煩雑ですがご容赦ください。詳しく知りたい方は下の参考文献をご覧になってください。
(1)右上肢は肩で、左右下肢は足関節付近で、離断している。離断面に生活反応はない。
(2)顔面部全体はお面を脱いだように頭部から取れている。顔面、頭部の傷には出血はない。頭蓋骨は粉砕されている。
(3)両目は開き、僅かに混濁している。
(4)左右眼瞼結膜には半米粒大以下の溢血点がある(生活反応)。
(5)右胸胸部で乳頭下方に皮下溢血点がある(生活反応)。
(6)左右手背部から指先は紫色に皮下出血をしている(生活反応)。
(7)右肩の離断面から孔のあいた心臓が飛び出している。
(8)腹部から臓器が飛び出している。
(9)筋や肝臓には血液が少ないが、肺臓には血液が多い。
(10)臓器の多くは挫滅されている。胃腸内は空虚。胃粘膜と腎盂粘膜に小さな出血あり(生活反応)。
(11)大動脈、心臓、肺、腎臓、膵臓、肝臓には病的変化はない。
(12)陰茎、右睾丸には、それぞれ表皮剥離を伴わない皮下出血をがある(生活反応)。
(13)足関節周辺および足背部に少数の皮下出血がある(生活反応)。
(14)皮下出血を除いては、全身のどこの皮膚にも生前に出来たと思われる傷はない。顔面、右上肢、左右下肢の離断面の皮膚もつなぎ合わせるとぴったりと合い、欠損部はない。
(15)皮膚は蒼白で、死斑はほとんど認められない。全身に出血を伴わない鈍創傷がある。
(16)第一頸椎と、第二頸椎前半は粉砕されている。脊椎骨、肋骨、骨盤骨が折れてねじれている。
(17)脳は350グラムしか残っていない。
(18)薬物は検出されなかった。
(19)死体硬直は解剖開始時に中程度で、終了時には完成していた。
(20)死亡時刻は5日の午後9時30分から前後2時間以内(死体硬直からの推定)。
(21)他殺されたものと推定する。
おそらく最も大切なのは、(1)の「離断面に生活反応はない」ということでしょう。生きている人間が轢断されたのなら生活反応が見られるはずだと東大法医は考えたので、死後に轢かれたという結論になりました。後に桑島講師は(12)の性器の皮下出血を理由に「局部蹴り上げによるショック死」を死因として主張するようになります。また、(6)左右の手首より先が紫色に皮下出血をしていることから、生前下山氏が監禁状態に置かれ、縛られていたからではないかと推測しています。
解剖は通常2時間もあれば十分終わるものらしいのですが、下山氏の場合は極めて慎重かつ徹底的に行われました(午前1時40分から午前5時12分までの約3時間30分)。桑島氏は「これ以上綿密な検査は出来ないというところまでやった」そうです(『資料・下山事件』p229)。
※
錫谷徹著 『死の法医学』には右陰嚢にも出血あり、とありますが桑島氏の証言を見るとおそらくそれは間違いです。
【参考文献】
佐藤一著 『下山事件全研究』(時事通信社)
下山事件研究会編 『資料・下山事件』(みすず書房)
錫谷徹著 『死の法医学』(北海道大学図書刊行会)
関口由三著 『真実を追う』(産経新聞社)
佐久間哲夫著 『恐るべき証人』(悠飛社)
- 2007/12/09(日) |
- 法医学論争
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