今回は
「法医学論争(11) 死後轢断鑑定の妥当性の検討−その2 北大錫谷徹氏による下山事件再考」の補足説明です。
なぜ胸腹部の受傷から、「立位で機関車と衝突した」という結論に結びつくのかということですが、まず、線路上に横たわっていたと仮定すると、列車の底部で地面と最も近い部分で31センチメートルなので、それ以下になるまで胸腹部が圧迫されることはありません(下山氏の胸腹部の直径は30センチかそれ以下と考えられます)。列車の底部と地面との間で、細かく弾むようにして引きずられていったとしても、身体と列車は同方向に進んでいるので、衝突の力は小さいうえ、胸腹部を扁平化するほど広く突出している構造物は、列車の底部にはありません。車輪に巻き込まれた場合も、轢過を伴わずに胸腹部が強烈に圧迫されるということは考えられません。したがって、横たわっていた状態では胸腹部の受傷の説明がつかないのです。
次に立位だったと仮定すると、身長174センチの下山氏の胸腹部に相当する高さのところに、台枠前端梁という胸腹部の大部分を覆う面積の平面な構造物があり、列車の構造から見ても矛盾がないうえ、列車に正面から衝突することにより凄まじい力が加えられるはずなので、胸腹部が扁平化し心臓が血管から離断して転位しているという重大な受傷も説明がつきます。このような場合にはほぼ衝突の瞬間に心臓離断が生じ循環機能の停止が起きていると考えられるため、轢断部における明確な生活反応の欠如も当然だといえるでしょう。下山氏の死体を初めて見た医師の八十島氏も、背骨が粉砕されているという所見から、立位で列車と衝突したのだろうと後になって述べています。『死の法医学』の図を改変して下の図を作ったので参考にしてください。赤い矢印は衝撃の大きさと考えてください。「310」というのは、地面から列車の最低部までの距離です(単位mm)。

胸腹部を扁平化させるような衝撃は立位で列車前面と衝突しなければ生じない(左:立位、右:仰臥位もしくは伏臥位)
「轢断列車と成傷機序」もご参照ください。
- 2008/03/29(土) |
- 法医学論争
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