下山事件の司法鑑定結果をめぐって法医学者の見解に対立がある。多くの報道機関は一方的見解のみを伝え、国民に混乱と誤解をもたらす可能性がある。よって新日本医師協会は次のような見解を公表する。
一、法医学会の危機について
法医学会理事古畑氏は、7月30日に法医学会緊急理事会を開き、学会として公式に他殺の声明を発表しようとした。何人かの理事の反対で実現しなかったが、危うく法医学会は某方面の御用機関となるところであった。
緊急理事会では他殺説への批判的意見は制限され、出席者は今後下山事件に関する発言を慎むよう発言した。このような一部ボス学者の高圧的態度は法医学の権威を失墜させるものである。
二、法医解剖学的見解
・死後轢断すなわち他殺ではない。最初の外傷によって即死し、その直後轢断された場合には生活反応を欠くことがある。
・生体轢断でも多量の出血を伴わないことも多く、三鷹事件の犠牲者には睾丸皮下出血も認められた。
・轢死体に関する法医学的知見は少なく、確固たる体系が存在していない。他殺後の轢断死体の司法解剖例はほとんどなく、古畑氏のように単純に結論を導くべきではない。しかし一般的に見て自殺と考えて問題はない。
・死体は轢断され、雨の中一夜放置され、基礎所見そのものが相当荒れている。
・古畑氏は生前の傷が轢断より時間的に相当先行しているとして他殺を推定したが、相当先行しているという根拠を示せていない(小宮氏の批判に反論できていない)。
・下山氏の死体には心臓や肺などの胸部に重大な外傷があり、心臓の急激な停止後では出血を伴わない轢断も十分考えられる。
・古畑氏が生前のものと判定した皮下出血が殴打暴行によってできたとする説明は、根拠が薄弱で科学的検討が必要である。
・出血のない死後創と判定された傷も、血が雨に流された可能性を考慮しなければならない。しかも外傷による急激死においては、血液凝固能の急激な減少が起こりうる。
以上の見解にもとづき、他殺説を非科学的と断ずる。
三、裁判化学的見解
・秋谷氏の見解の基礎となったモルモットを使った実験は、死後「日単位」の実験を主として行っていたものであり、下山事件のように「時間単位」の推定を行うのは無理がある。しかもクロロホルム麻酔死のモルモットの結果を人体に、しかも下山事件のような重大事件に初めて応用し大々的に結果を発表するという行為は謙虚な科学的態度とは言えない。人体例もあまりに少なく、モルモットの例数さえ十分ではない。
・モルモットで行われた実験条件(摂氏30℃)と下山氏の死体が放置されていた条件(轢断された後に一中夜雨ざらし。温度はおそらく30℃より低い)があまりにも違いすぎる。これだけ条件が違えば酵素反応の速度もかなり違ってくるはずで、モルモットのデータから下山氏の死亡時刻を推定することは困難である。
・秋谷氏の酸性度測定の方法はテストペーパー(ロ紙)を使用したもので精度に欠ける。
以上の見解にもとづき、秋谷氏による死亡時刻推定を非科学的と断ずる。
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