下山事件自殺説紹介ブログ

他殺説に比べ情報が手に入りにくい自殺説の紹介をします。

法医学論争(5) 慶大中館久平教授、元名大小宮喬介教授からの批判と古畑氏の反論

 轢断面に生活反応が認められないなど、東大法医学教室の死後轢断という判断に猜疑をさしはさむ余地はないように思われましたが、有力な法医学者から批判が出ました。下山事件と言えば思い出される、いわゆる法医学論争の始まりです。ここでは、新聞記事、昭和24年7月30日の法医学会緊急理事会、同年8月30日の衆議院法務委員会、および小宮氏、古畑氏、桑島氏の東大での会談内容などを元にして中館氏と小宮氏からの批判の要点をまとめます。

慶大中館氏からの批判
・秋谷氏のpH時間測定法はまだ確立された方法ではないので、参考程度にしかならない。
・飛び込み自殺では出血が少ない場合がある。
・三鷹事件の犠牲者(生体轢断)の多くで睾丸、陰茎、陰嚢の表皮剥離を伴わない皮下出血が見られた。性器の皮下出血は生体轢断の証拠と言えるのではないか。また、性器以外にも眼瞼、手背部には下山総裁と同様の表皮剥離を伴わない皮下出血が見られた。これもやはり生体轢断の特徴なのではないか。
・局部に鈍力が加わってショック死するという例は聞いたことがない。

元名大小宮氏からの批判
・中館氏と同じ理由でpH時間測定法を批判。
・轢死(生体轢断)の場合、まず列車に当たった衝撃で瞬間的に心臓が止まる。その後に体が轢断されても、心臓がポンプとしての機能を停止しているのだから、出血等の生活反応が見られなくても不思議ではない。
・局部等の生活反応が轢断される前に人からの暴力によってできたのか、列車に当たってできたのかは警察の捜査を待つべきで、他殺だと結論を急ぐべきではない。
・機関車底面についていたという血はゼリー状だったというが、凝固能力の高さを考慮すると生体から出た血液だった可能性が高いのではないか。
・局部の出血については、必ずしも鈍力によるものではない可能性がある。
・轢断面の出血は雨に流された可能性もあるし、非常に早いスピードで切断されると出血が少ないこともある。
・四肢の先端部の皮下出血は左右対称すぎ、直接その部位に鈍体作用を受けて出来たものというより、血管運動中枢が強い衝撃を受けて、その結果末梢の血管から出血したのではないか。

東大古畑氏からの反論
・まだ自殺とも他殺ともはっきりと言ったことはない。死因はまだ不明(8月30日の発言)。
・雨に打たれても轢断面の出血は残る。
・三鷹事件の死体はレール上で轢かれたものではないので、轢死体とは認められない。したがって、三鷹事件の死体所見を下山事件のそれとは比較できない。
・中館氏は轢断面の生活反応について何も考えていない。
・pH時間測定法は人間に適用しても20分以内の誤差という正確な結果が得られたので問題ない。


 参考までに記しますが、昭和24年7月30日の法医学会緊急理事会で古畑氏は「学問は国家のために奉仕しなければならない」と発言したそうです(『下山事件全研究』p213)。また、『法医学』という書籍の序文で「法医学は公安医学である」とも述べています(『下山事件全研究』p292)。古畑氏の法医学という学問に対する考え方がよくわかります。
 なお、他殺説の文献では中館氏と小宮氏が「遺体の轢断面に生活反応がなかったことについて、明確に説明していない」(『下山事件 最後の証言(増補完全版)』p183)などと書かれたりしていますが、両氏ともそれについて言及していることが分かります。また、今後の記事で扱う予定ですが、その後の法医学の進歩による知見は、中館・小宮両氏の考えと大筋では矛盾していないように思われます。


追記
7月30日の法医学会緊急理事会の出席者は、古畑東大教授、桑島東大講師、遠藤京大教授、加賀屋千葉医大教授、石川慈恵医大教授、浅田東京医大教授、中館慶大教授、羽田日本医科大教授、野田昭和医大教授、村上横浜医大教授、吉成東京女子大助教授、井関前橋医大教授、国警科学捜本田査研究所法医学課長、水野監察医務院長、の計10表議員でした(毎日新聞、昭和24年7月29日付)。
  1. 2007/12/09(日) |
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