轢断現場周辺に落ちていた下山氏の腕時計のネジを警官が動かしてしまったため、証拠としての価値がなくなってしまったという記述があります(『日本の黒い霧 上巻(文庫版)』p14)。確かにその行動は証拠品の扱いという観点からすると軽率だったかもしれません。しかし、勘違いしてしまいやすいのですが、その警察官は時計の針を動かしたわけではなく、時計の停止時刻(12時19分57秒)を確認したうえで、時計が自然に止まったのか、それとも轢断のショックで止まったのかを知るためにネジを巻いたのです(『下山事件全研究』p84、『生体れき断』p147-148)。したがって、腕時計のネジが警察官によって巻かれたことで失われる情報というのは、「ネジを巻いてから轢断のショックで時計が止まるまで、どれくらいの時間が経っているか」ということです(もちろん、轢断のショックではなく、何者かに暴行されたときに腕時計が壊れて止まった可能性もありますが)。これはネジの巻き具合から大体推測できるようです。ですので、轢断の時間を推測するための証拠としての価値は損なわれていませんし、実際腕時計の停止時刻は、列車の推定通過時刻(12時19分30秒)とほぼ同じでした。ちなみに下山氏は、毎朝決まった時刻にネジを巻いていたそうです(『今だから話そう』p227)。
なお、『下山事件 最後の証言(増補完全版)』では、
「ところがこの警察官がその腕時計の針を動かしてしまった(後に報告)ために、総裁の死亡時刻を推定するための重要な証拠品としての価値がなくなってしまった」とありますが(p98)、警察官は腕時計の針を動かしてはいない、自殺であろうが他殺であろうが腕時計のネジの巻かれ具合と死亡時刻の推定とは直接的な関係はない、という2点において間違っています。
- 2008/04/11(金) |
- 警察・捜査関係
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