今回は下山氏自身の自殺を仄めかす言動について見ていきたいと思います。
失踪前の昭和24年6月27日、東京鉄道局長時代の秘書を務めていた女性が東京の下山邸を訪れています。以前よりやつれて元気のない下山氏を気遣う女性に下山氏は「苦労するので白髪も増えた」、「首を切られるのは可哀そうでならん」、「毎日あっちこっちからせめられるので困るよ。俺が整理されたほうがよい」と話しています。そのとき下山夫人は、「(下山氏は)毎晩神経が尖って眠れないので薬を飲んで寝ます」、「毎日顔を見ないうちは心配でならない」と話しており、下山氏の不眠や精神的疲労がかなり深刻であり、夫人も相当不安を感じていたことがうかがわれます。後日、元秘書の女性はその日の下山氏の様子を「元気がなく別人のようだった、人と会うのを嫌っていた」と述べています(『資料・下山事件』p462-463、466、『真実を追う』p231、『生体れき断』p205-206)。下山氏の「俺が整理されたほうがよい」という言葉に自殺の前触れのようなものを感じるのは考えすぎでしょうか。
しかし、下山氏が知人にはっきりと自殺の意を漏らしていたという事実もあります。日本医事新報という医学雑誌(昭和24年8月9日号)に、自殺念慮の強い初老期鬱病のケースが報告されています。この患者は運輸会社の社長で事件直前にも下山氏と親しくしていたそうですが、その頃の下山氏は彼に自殺の意を漏らしていたのだそうです。彼は当時の下山氏の状態が自分の鬱病の症状と全く同じだったと述べています。自殺説を支持する事実として失踪直前の奇行などはよく知られていますが、下山氏自ら自殺を仄めかしていたという重要な事実は見落されがちです(『下山事件全研究』p614-615)。
- 2008/04/05(土) |
- 下山氏の精神状態
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