下山事件自殺説紹介ブログ

他殺説に比べ情報が手に入りにくい自殺説の紹介をします。

諸永裕司氏のこと

 諸永裕司氏が自著において、末広旅館のNS氏が元特高警察関係者であったことを「新情報」として記述していることは既に「平成三部作のこと」で指摘しました。ですがNS氏が元特高であったことは管理者の知る限り、1964年に平正一氏が、1969年と1970年に関口由三氏が、そして最近では1986年に増田滋氏が周知の事実として語っています(「平成三部作のこと」「末広旅館の主人NS氏」、および事件関係ブログさんの「下山事件: 諸永裕司氏のレトリック その2」参照)。もうないかなと思っていましたが、またひとつ見つけました。

 不勉強でお恥ずかしいのですが、当ブログ管理人はつい最近になって1999年に週刊新潮に掲載された、麻生幾氏による下山事件関係の一連の記事を読みました。この連載を評して諸永氏は『葬られた夏(文庫版)』(朝日新聞社)で次のように述べています(p138-139)。

 そもそも、下山のポケットから麦の穂が見つかったことは、事件直後の四十九年七月十七日付の朝日新聞が報じている。それをあたかも新証言のごとく扱っていることが不思議だった。僕はこの烏麦証言をした金井岩雄という刑事に直接たずねてみたいと思った。


 管理人が麻生氏の記事を読んだ限り、事実をあたかも新証言のように扱っているという印象は受けませんでした。一課の刑事たちがどういう捜査や思考を経て「自殺」という結論に至ったのかがよく分かる、優れたルポルタージュであると思います。それはさておき、その週刊新潮の麻生氏の連載には次のような記述があります(『週刊新潮』 1999年2月18日 p54)。

さらに同日、初めての目撃証言が捜査本部に飛び込んだ。死亡直前の下山総裁を見た、という重要証言だった。「遺体発見現場近くにある末広旅館から電話があったのです。偶然にも、旅館の女将の旦那さんが、かつて麻布鳥居坂警察署にいた警察官で、主任(関口)さんも知っているし、私の先輩でもあったことから、素早く電話をしてくれたのです。旦那さんは下山総裁を見てはいなかったのですが、奥さんがハッキリ見ていました」(金井)


 つまり諸永氏は、「末広旅館のNS氏が元警察関係者だったこと」、「捜査一課の関口氏とNS氏が知り合いだったこと」がはっきり書いてある記事を読んだのがきっかけで元捜査一課の金井岩雄氏にインタビューをし、次のような文章を書いているわけです(『葬られた夏 追跡下山事件(文庫版)』(朝日新聞社)p178)。

 また、亡くなってから十七年になる夫のSについて、捜査一課の数少ない生き残りの刑事である金井は雑談の中で意外なことを漏らしていた。
「最初に通報してきたのは末広旅館の旦那だったけど、このNSっていう男は偶然にも私の先輩でね。警察に入って間もないころ、麻布鳥居坂署で一緒だったんだ。そのとき、(関口由三・捜査一課)主任も顔見知りだった。元特高の警察官なんだよ」
 新情報だった。第一通報者で疑惑の証言をした末広旅館の女将の夫が捜査一課員と旧知の間柄だったことになる。
 やはり、自殺説は仕組まれていたのだろうか。


 「新情報だった」とありますが、これは諸永氏の勘違いや記憶違いでしょうか。しかし、「何が起きたのかをきちんと聞き出し、記録することが仕事じゃないか」(p232)と述べる諸永裕司氏が事実の記述に細心の注意を払わぬはずはありません。万が一ケアレスミスだったとしても、平成三部作の著者らすべてが気づかなかったというのもおかしな話です。諸永裕司氏に関しては事件関係ブログさんの一連の記事も是非ご覧ください。

 ひとつここで述べておきますが、他殺説関連の文献における不自然な引用方法等についてしばしば記事を書くので、いちいち揚げ足取りをしているようで見苦しく思う方も居られるかも分かりません。これまで取り上げてきた不自然な引用や事実説明は、非常に些細なものもいくつか含まれています。しかし、そういったところにこそ書いている者の誠実さ、不誠実さが端的に表れると管理人は考えています。

 ちなみに、週刊新潮に連載された麻生幾氏の文章は、『戦慄』と『封印された文書』(ともに新潮社)で読むことができます。加筆・修正されているので週刊新潮に連載されたものとは少し違いますが、当然、捜査一課の関口氏と末広旅館のNS氏が知り合いだったことも以下のように書かれています(『戦慄 昭和・平成裏面史の光芒』p263、『封印された文書 昭和・平成裏面史の光芒 Part 1』p424)。

 それは一本の電話だった。遺体発見現場近くにある、末広旅館という、今でならさしずめビジネスホテルといった風の宿からの電話だった。偶然にも、旅館の女将の夫が、かつて麻布鳥居坂警察署にいた警察官で、関口主任もよく知っていた人物だった。



「『下山事件の謎を解く』 堂場肇(著) 六興出版社」「三大新聞社と下山事件報道」の「下山事件をめぐって」という記事もご参照ください。
  1. 2008/03/14(金) |
  2. 平成三部作
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